わたしが唯一識別できるオリオン座が夜の空にあって、
その確立した輝きにうろたえてしまう。
疑わしいのはむしろわたしの記憶のほうであろうと、
誰彼なく思わせる力がある。
本当は曇り空の下、洗濯物がはたはたと波打っていたはず。
空を見上げてみたら、雲がまるで早回しの映像のように
右から左へ流れていて、この分だと、蝉はこの寒い
大地から這い上がってまだ薄く濡れた羽を開くだろうし、
種子に窮屈に収まった双葉は、なけなしの身体を、
行き着く先のない空に伸ばし始めるその痛々しい努力を
開始しないではいないだろう、と思っていた昼間。
慌しい年の暮れの街に男も女も女も男も入り乱れて乱れて、
わたしはそういえばひとりだった。
夜の空気はしっとりと暖かい。
昼からの風はまだ強いけれど、
冬の日差しを感じられずにいた私の身体のあちこちが、
暖かさの中に溶け出しそうに疼く。
扉がかたかたと鳴る。
窓が少し開いているのかもしれない。
オリオン座はいまのわたしからは見えない。
消え入りそうな空間とも呼べぬ不安定な次元の、
狭間にふとあいた空間に偶然、わたしはいま居る。
その偶然は運命めいた何かではなく、
デジタルに管理される神様の運営する社会の、
陽のあたらぬ影にあって、束の間の休息に過ぎない。
他愛もない空間にわたしはいま居る。
居ると言うよりも、誰も知らない時の中に紛れている、
と言うべきかもしれない。
オリオン座はきっと輝いている。
わたしはそれを知らないではない。
そう。偶然の果たす意味に応えることに臆病であるほど、
強くあることも、できなくなりはじめている。

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